カーテンを開けっ放しにしてあるので、朝陽で目が覚める。
今日は、パンを買いに行かねばならない。
居間にいくと、誰もいなかった。
机の上に、律儀に食事とコップが置いてあった。
冷たい麦茶を飲みたいところだが、人の家の冷蔵庫を開ける気はしなかった。
裕子ちゃんか、絵奈さんでもいればなぁーと思った。
その時、絵奈さんが玄関から勢いよく入ってきた。
「ご飯食べた?」
「まだです。冷たい麦茶を頂きたいのですが。」
「冷蔵庫から、勝手に飲めば良いのよ」
絵奈さんは当たり前のように言う。
だが、ここは僕の家ではない。
「みんなはどこに行ったんですかね?」と僕は絵奈さんに聞いてた。
絵奈さんは、
「さあ?畑か買い物じゃない?」
と、自分には全く関係ないように答えた。
「なるほど」と、僕は答えるしかなかった。
絵奈さんは一体何なんだろう? 朝はいつもいない。母親も朝はいない。
田舎だから、朝から畑仕事をしているのだろうか?
それとも、絵奈さんからは、いつも微かに海の香りがするから、漁業でもしているのだろうか?
田舎の生活は、僕には全く予測がつかなかった。
僕はスニーカーを履いて、集落に一軒しかない商店に行った。
調味料は、埃を被っていた。
ペットボトル一本とパンを数個を適当に取り、古びたレジスターに向かった。
誰も居なかった。
大きな声で、何度か呼びかけた。
寝起きのライオンのように、ダルそうに、肥った老婆が出て来て
「740円」と言った。
集落の人間にも同じ態度で接客するのだろうか?
僕は、740円を渡す。
そこに会話はない。
集落の外れに小高い山がある。
僕は明日の朝、登ろうと決めていた。
山に登ることは誰にも伝えるべきではないと、 自然と感じていた。
明日も晴天だと、何故か確信があった。
大島家に戻ると、裕子ちゃんがいた。
この家には誰かしらがいて、監視しているようだ。
夜になると、いつもの宴会だった。
僕は、明日に備えて、早く眠ろうと決めていた。
心に強く決めるのと、反比例して、眠りは遠ざかっていった。
部屋から、縁側に出て見る。
縁側で眺めていた植物は、あさがおだった。
僕は、一睡も出来ず、朝を迎えた。