二人とも、
玄関を見て、
母親の帰りをいつも待っている。
母親は、
看取る中、
最期に、
「さくら と もも を頼むな」
と普段の会話のように、
僕に話しをしていった。
ねね(先代のミニチュアダックスフンド)
が尻尾をふって喜び、
笑顔のお父さんが脇にいた。
満中陰(四十九日)の数日前の深夜、
寝ていると、
誰かに起こされた。
母親が
「さくら と もも を頼むな」
と言った。
ねねが走り回っていて、
父親が笑顔で立っていた。
僕が
「向こうには無事行けたんやね。
ちゃんと大事にするから、安心し。
まあ、僕らが行くまで夫婦で楽しんでいて」
と話すと、
母親は、笑いながら
「もうだいぶ前に、ちゃんと来てるよ。
」
「じゃあ、本当に、さくら と もも を頼むわな」
と話して消えて言った。
母親らしいなと思った。
自分のことではなく、
さくら と もも。
父親も同じ。
亡くなるときに、
ねね を頼むな。
でも、
さくら と もも
は
毎日、
二人仲良く玄関にいる。
母親がディサービスから帰ってくると信じて。
そうこうしている内に、
僕も行くのだろう。