昔、霊能者としての駆け出しの時代の話。
場所は島でも、山村でも良い。
読者の想像にお任せしたい。
とりあえずは田舎であり、コミュニティの繋がりが強い閉鎖的な場所であった。
その小さな集落の、古い民家に霊能者が呼ばれた。
古い民家には、やや茶髪の長い髪の20代前半の綺麗な女性がいた。
女性には、黒い髪の10代後半の可愛いが、暗い顔をした妹さんと、疲れた手をした母親がいた。
父親はいなかった。
客間の、畳の部屋に僕は通された。
数日分の衣服を大きなリュックに積めて。
もうすでに、二人の霊能者が来ていた。
一人は、白い衣装をまとったイタコのような老婆の霊能者だった。
ひたすら、ブツブツとなにかしらの言葉を唱えていた。
もう一人は、頭が剥げて髪の毛がない、坊主姿で作務衣をきていた男性老人だった。
座布団に座って、氷の入った麦茶を飲んでいた。
なぜ、麦茶とわかるかといえば、僕が席につくと暗い様子の妹さんが氷を入れてだしてくれたからだった。
暑い真夏の渇いた喉にはすぐに吸い込まれていき、お代わりをお願いした。
僕が揃ったことで、暗い母親が正座をして口を開いた。
今回、来ていただいたのは、全員で三人の霊能者だということ。
そして、いままでも「この家」では、霊能者を受け入れてきたこと。
この地域や、人の名前を他言しないこと。
そして、霊能者の皆さんにはわかる、不思議なことを解決して欲しいということ。
話をまとめると、このようなことだった。
僕は、深くも考えず、「この家」には何か隠し事があるんだなぁー程度に考えていた。
田舎にある古い家らしく、平屋で部屋は沢山あった。
トイレやお風呂は一つしかないのに。
そして、霊能者には、それぞれ部屋を与えられた。
僕は、日差しの入る、風通しの良い部屋を選んだ。
荷物もなく、殺風景だったが、それがいたく気に入ったから。
クーラーもしっかりとついていたし。
真夏の日差しには、クーラーは必要不可欠だ。
その夜、集落の人々が集まってきて宴会となった。
中年をこえた男性たちが、大きな声を出しながら、酒を飲んで騒いでいた。
郷土料理も振る舞われた。
しかし、僕は、酒も郷土料理も好きではなかった。
縁側で、庭の草木を見ていた。
田舎らしく、星が綺麗だった。
何で、こんな所に来たんだろう?
布団や環境になれるまで、しばらくは眠れないなぁー。
食事は、カロリーメイトを持ってきたから、大丈夫。
そんな、些細なことを考えていた。
僕は、枕が変わると眠れない人間なのだ。
また、冷たい食べ物を食べることが苦手なのだ。
そのような些細なピースが積み重なって、神経質な人間と思われてしまうことがあった。
部分と全体は違う。
それは、最高の素材を集めても、出来た料理が激マズのように、部分と全体の相関関係がない…そんな下らない話はやめておこう。
夜は、集落のみんなの大騒ぎと、酒好きの二人の霊能者を巻き込んだ宴会が行われていた。
その一方で、僕は縁側で小さく伸びていく植物を見て、心を和ませていた。
「お気に召さないことがありましたか?」
綺麗なお姉さんが声を後ろから、かけてきた。
僕は、びっくりとした。
しかし、
「いいえ、植物を観るのが好きなんです。都会では植物は少ないですから」
と、僕は明るく理由になっているか、わからない言葉を発した。
お姉さんは、不思議そうに、
「ここは、田舎だから、どこにでも植物なんてありますよ」と笑って言った。
僕は美人だなぁーと、単純に思った。
奥の居間では、忙しく暗い母親と妹が動いていた。
集落のみんなや二人の霊能者の笑い声が響いていた。
縁側は全くの静寂で、虫の声が響いていた。
お姉さんは、僕の横に座り、早くこの集落を出たいと、ポツリといった。
その時の声は、さっきまでの優しい声ではなく、冷たく殺意のこもった声に聞こえて、僕の胸を突き刺した。
お姉さんは、微笑みながら居間へと戻っていった。
「油断をしてはいけない」
どこからともなく、声が心に響いた。
僕は、心に深く刻みつけた。